次世代に繋ぐ遺言承継

不測の事態に備える必要があります

先代や現社長にとって、跡継ぎ(後継者)への経営承継が視野に入ってくると、気になるのは、跡継ぎ(後継者) へ事業に必要な自社株や事業用資産を、全て引継げるかが、一番の心配ごとになってきます。

生前に、事業に必要な全ての財産を跡継ぎ(後継者)に引継ぐことができればいいのですが、資金面の余裕や 準備期間が短かかったり、急病や事故等で急逝したり、認知症を発症して商行為ができなくなったり等 跡継ぎ(後継者)に引継ぎを完結できないケースが数多く発生しています。

先代や現社長にとって遺言書の作成が重要

経営承継を控える、先代や現社長の相続では、跡継ぎ(後継者)への自社株の集中と、経営に携わらない家族 や親族にとって、公平な相続を両立させるため、遺言書の作成が重要になってきます。 先代や現社長が「自社株」を保有したまま、遺言書を残さずに亡くなられた場合は、面倒な事態が発生して しまいます。

自社株が分散する

先代や現社長が跡継ぎ(後継者)をきちんと定めていても、遺言書を残さなかったことで遺産分割協議が行わ れて、自社株が家族や親族に分散してしまう恐れがあります。

跡継ぎ(後継者)が、今後の経営を安定して進めるためにも、自社株を多数保有することで議決権を確保して おくことが肝要になってきます。

遺言書によって相続させる、又は遺贈する家族を指定しておけば、経営に携わらない家族や親族が自社株を を持つことが防げます。

家族以外の親族や外部の人材を登用

先代や現社長の相続人となれるのは、原則として配偶者と子のみです。
それ以外は、「両親などの直系尊属」⇒「兄弟姉妹および代襲相続人」の順に順位が決まります。

先の順位の人が1人でもいる場合、後の順位の人は相続人になれません。

順位の低い血族者や外部の人に、社長として経営を継いでもらいたい場合は、遺言書によらなければ、 遺贈の意思を明確にすることが出来ません。遺言書を残すことで、順位の低い血族者や外部の人材を跡継ぎ(後継者)として登用することも出来ます。

法定相続分では跡継ぎ(後継者)が必要な財産を相続できない

遺産分割協議以外の相続としては、相続人が法定相続分で遺産分割を実施する場合があります。
事業に供している土地や家屋等を共有すると、次世代に問題を先送りしたような状態になり
、次の相続時 には、より一層揉める展開に発展するケースが数多くあります。

法定相続を前提とした遺産分割では、後継者に必要な株式や事業用の資産を集中させることは困難です。
遺言書で、跡継ぎ(後継者)が安心して経営に携われる環境をつくる必要があります。

遺言書を残して跡継ぎ(後継者)へ全株式を譲渡する

遺言公正証書イメージ

遺言書を残しておけば、相続の場面であっても株式が分散することはあり ません。例えば、跡継ぎ(後継者)である長男に、保有する株式を全て相続 させると記載すれば、跡継ぎ(後継者)へ、株式を渡す旨の希望である意思が 表明できます。先代や現社長の意志が明確になれば、相続人全員に受入れ られ易く、紛争になるケースが極端に少なくなります。

遺言書を事前に残しておくだけで、その後、会社が上手く存続できるか どうか違ってきます。基本的には、遺言書の通りに相続が実行されます。 遺言書があるだけで、不毛な争いを回避しながら後継者一人に株式を集中 できるようになります

自筆証書遺言ではなく公正証書遺言が安全

遺言書の作成は、早ければ早い程安心です。例えば、先代や現社長が脳梗塞を発症して、意思疎通を上手く 図れなくなった場合、遺言書を作成することはできません。意識がないのに勝手に遺言書を作っても無効に なるだけです。

遺言を残す人が作成し、押印によって作成する遺言書が自筆証書遺言です。紙と筆記用具さえあれば無料で 誰でも気軽に作成できる遺言書になります。
ただ、経営承継で自筆証書遺言を活用する人はあまり見られません。自筆証書遺言は少しでも、書き方が 間違っていると無効になり、場合によっては親族によって偽造されるリスクもありあす。

公正証書のメリット

公正証書遺言は、遺言書を公正証書にしたもので公証役人役場で作成します。公証人と呼ばれるプロが 法律の規定どおりに「公」の書類として作成するので、費用は掛かりますが、確実に有効な遺言書を残した いときや、財産を確実に指定しておきたい、経営承継を進めるうえで数多く採用されています。
公正証書遺言を利用すれば、「遺言書の効力が発揮されない」という事態を防げるようになります。
さらには、遺言書が公証役場に保管されるため、盗難や紛失、偽装の心配もありません。

遺留分に配慮が必要

遺留分とは、民法において規定されている、法定相続人が最低限受け取ることができる遺産のことです。

相続には法定相続人の生活保障の意味合いがあり、配偶者や親子関係にある相続人には、最低限の遺産を 受け取る権利が保障されています。この遺留分は、遺言によっても減らすことはできません。
配偶者と子の相続の場合の遺留分は、それぞれ、法定相続分の2分の1とされており、配偶者の遺留分 は4分の1、長男と次男と三男はそれぞれ12分の1です。

(図)遺留分

例えば、長男が経営承継するケースで、先代や現社長の遺産の内訳が、会社の株式(評価額900万円) 会社の事務所の底地と駐車場(評価額1600万円)、事業以外の資産が1000万円で計3500万円である場合、 配偶者(母)の遺留分は875万円、次男と三男の遺留分は291万円ずつとなります。

つまり、長男が全遺産3500万円のうち、2500万円相当の株式と事業資産を取得しようとすると、 母や次男と三男の遺留分を侵害します。遺留分を侵害しても、遺言が無効になるわけではありませんが、 遺留分権利者は、遺留分に満たない部分を金銭で請求する権利(遺留分侵害額請求権)が発生します。

そのため、仮に遺言によって長男が2500万円相当の株式と事業資産を取得した場合には、長男は母や次男や 三男から、遺留分侵害額請求をされる可能性があります。

遺言書の作成前に家族で話し合いを

跡継ぎ(後継者)への経営承継の準備では、先代や現社長が遺言書を作成し、残すことが争族を防止します。 しかし、忘れてはならないのが、事前に家族間で協議をすることが非常に重要であるということです。
遺言書が、もし他の相続人の遺留分を侵害している場合には、遺留分減殺請求によって遺言書どおりの 結果が実現できない場合があります。それでも、家族間で、会社の跡継ぎ(後継者)についての経営承継の 合意が形成されていれば、相続人全員が遺言書を尊重してくれるケースが殆どです。

また、跡継ぎ(後継者)以外の経営に携わらない家族への、公平を保ちながら経営権が分散しないように財産の 分配を決めることも重要です。先代や現社長の財産の大部分が、自社株や事業用資産で、その他の財産が 少ない場合には、生命保険の受取人になってもらったり、生前贈与を行い、跡継ぎ(後継者)と経営に携わ らない家族との、譲渡資産の差が乖離しないような取り組みも大切です。

特に、先代や現社長の遺言書作成では、型通りの内容では済まないことが多く、会社の状況はもちろんのこと 相続人となる、一人ひとりの気持ちを踏まえて、遺言書を作成していく必要があります。
万が一、遺言書がない場合であっても、相続人間の話し合いがきちんとできていれば、会社を無事、跡継ぎ (後継者)に経営承継を進められる可能性も高くなります。