尊厳死を考えるきっかけになった事件

2005年3月富山県射水市民病院で、末期ガン患者の人工呼吸器が医師によって外される死亡事件がありました。
警察は事件当初「殺人罪」の立件を視野に捜査、起訴しましたが患者の延命治療や家族の介護ノイローゼ等マスコミの連日の報道によって、公に知らされることになり、世論が医師の行為をやむをえないと後押しされるように検察は「殺人罪」について不起訴としました。

この事件をきっかけに国会でも法制化される流れになりましたが、「人の生き方そのものが、法律によってどう生きろと決まってない、にも関わらず、人の死に方を法律で決めるのはおかしい」と云った主張もあり憲法の基本的人権の尊重にあたる等の理由で、現在でも進んでないのが現状です。

民主主義国家、色々な考えもありますが、尊厳死についても基本的人権の尊重にあたるのではないかと個人的には考えております、医療の発展と治療の高度化の歪みの問題ではないでしょうか。

尊厳死宣言、口頭だけでは難しい延命治療拒否

救急搬送されて、救命のために付けられた人工呼吸器ならまだしも、入院時に家族から延命治療を望まない旨の意思表示をしても、容体が急変したとのことで、担当医と病院長が協議して人工呼吸器を装着した、同意書に署名をして下さいと求められた事例があるそうです。何のための、そして誰のための医療なんでしょうか、とても悲し想いになります。
前述しましたが、近年、医療の発展と治療の高度化が進んだものの、患者の意思は置き去りになっている感が否めません。
生命に対する尊厳や畏敬の念は何よりも尊いものでなければいけないと思います。確実な尊厳死を迎えるには日本尊厳死協会に加入したり、尊厳死宣言を公正証書で興し法律のプロである公証人に認めてもらうのが確実です。

無論、普段から延命治療を望まない意向の表明と、コミニュケーションあっての話になります。

尊厳死宣言、寝たきり高齢者の延命治療

高齢者に対する治療の中には、患者本人さえ望んでないのものがあります、それが「胃ろう」です。
治療が高度化する前の時代、今から35年前、私も祖父母を亡くしました。いわゆる「老衰」です体力の低下から食事を自力でとることができなくなり衰弱し最期を迎えました。それが当たり前の最期だった時代ですが、現在では医療の目覚ましい発展により治療が高度化して「胃ろう」などの経管栄養を続け、栄養分を補給しながら、寝たきりのまま生を繋いでいる高齢者が多数います。医師も病院も生命を尊重して最大限の治療を行いますが、治療中に認知症等を発症した場合、本人に希望等を確認できず、やむなく治療継続をする場合も増えているようです。

チューブで生を繋ぐのも生命への畏敬の念だと思いますが、人間らしく最期を迎えたいのも生命への畏敬の念ではないでしょうか。
尊厳死宣言はそういった声を叶えてくれる心強い味方です。

尊厳死宣言は未成年でもできますか?

電話にて質問がありました、17歳の高校生です、随分と若いのにしっかりしていると思ったのですが…。
公正証書にする場合は遺言と同じ満15歳から可能です、でもそんなにお若いのに関心があるのですか?
自分はバイクに乗っていて、公道でも150キロ出しているので、事故に遭って延命措置になったら親に迷惑がかかるから、TV番組観て、延命治療は大変だと思ったから…150キロには感心しませんが、親御さんを思う気持ちは、思いやりのある、いいお子さんだなぁと感心しました。
お父さん、お母さんやご兄弟や親戚、友達もあなたが事故をおこして、そうなったら悲しいよ無謀な運転はやめた方がいい諭したつもりですが、どう思ってくれたのか…。
電話の終わったあとで、つぶやきました…命は大切に、私だってそんな尊厳死宣言書作りたくないからね。

尊厳死宣言書は難しいイメージ?

尊厳死宣言書ってどういったモノでしょうか?おそらく中高年の方だと思われますが、今年に入り電話での問い合わせが多くなっています。
お話を伺うと、何か裁判のように宣誓する感じですか?公証人役場ってお固いイメージがあって財産が多いと手数料が高くなるんですよね?普通の人でも入れるんですか裁判所みたいなところですかと、皆様の想像されるところも色々です。

ただ、安心して下さいと、いつもお話をさせて頂きます。宣誓もありません宣言書の内容確認があるだけです。財産が多いと高くなるのは遺言書を作成する場合です。裁判所の入口のように何人もガードマンは立っていません。用件があってアポイントを取れば普通の人でも入れます。

終活ブームもあってか、関心が高くなっていると思います。作成に難しいイメージがあると思いますが心理的な負担はそんなにも大きいものではありません。 逆に、作成した後は安心感がでてくるものだと思います。

延命治療を望まない尊厳死宣言

この業務を取扱い、家族を看取った体験から尊厳死宣言書を作成する方々の気持ちや、表明する意味の大きさを痛感しています。
特に金銭的な負担については、ネットの情報が表面的で実際のケースには、あてはまらないことも多いことがあると知らされました。
75歳以上の後期高齢者については、医療費の自己負担の上限があり、外来で1万8千円入院で5万7千6百円と云うのは多く知られています。しかしその範囲で済んでいる人は殆どいないそうです。相談者の方と面談の際に教えてもらったケースはお父様が、当初は4人部屋で入院されていたようですが、いびきが大きく周りの方々が寝られないと苦情になり、なくなく個室に移ったものの差額のベッド代が月に12万円もかかり、保険適用外で苦労されたようです。その後、胃ろうになり四人部屋へ戻り差額ベッド代の負担はなくなったもの毎月10万円は支払っていたそうです。
別の相談者のお話では、人工呼吸器の装着は4人部屋では機器が収納できず、個室になり差額ベッド代を加えると月14万円の負担だったとのこと。
これが、短期間の入院であれば負担も少なくて済むのですが、長期に渡ると厳しさが増していきます。
自分がどんな状況で、病院に運びこまれるか分かりません。延命治療をして家族に負担を掛けたくないものです。日々の健康管理に加え、いざと云う場合のことを想定して普段から話合いを行ったり、尊厳死宣言を活用したいものです。

尊厳死宣言公正証書について

60代の男性でしたが、実母を一昨年に亡くされたそうです。元々持病があって体は弱く、一旦入院されてから退院し自宅療養中に倒れられ、救急搬送されて2年弱入院期間があったそうです。お父様はお若くに亡くなられ、お母さまはおひとりで生活されていたとのことでした。
病気の治療方針については特にお母さまと話はされなかったようです。救急搬送の際にはご近所に住んでいたお母さまの妹も駆けつけてくれたそうです。医師からは自立呼吸が難しくなるから人工呼吸器の装着についても、考えいて下さいと伝えられたそうです。そして装着した場合は入院が長くなるケースがあるとの説明もあったそうです。

その時の判断を誤ったと話をして下さいました。単純に死なせるのは可哀想だし、叔母様からも治療費は出すから何でもしてあげて頂戴と頼まれた手前もあって、あまり深く考えず対応したことが結果的には延命治療となって時間的にも金銭的にも身体にも大きな負担だったそうです。
チューブに繋がったお母様をみて、そこまでして生きたかったのかなぁ、そこまで看病したと自己満足したかっただけなのかなぁと何度も自問自答し苦悩する日が多かったそうです。人生で一番辛い時期だったそうです。その反省を踏まえて自分は尊厳死宣言を作成すると決めたそうです。

医療が人命優先であることはわかりますが、医師をはじめ医療機関は人工呼吸器をするとどうなるか等、家族の今後の負担についても、もっと深く考えて説明をして欲しいと思います。誰しもその選択を迫られたとしたら、感情的になり冷静な判断は難しいのではないでしょうか。
特に身近な経験もなく、必要であるからと尊厳死宣言を作成される方もおられますが、今回のように自らが尊い経験をされ作成される方もいらっしゃいます。 
家族に心配をかけないように日頃から、病気については治療方針や希望を伝えておいた方が安心できますね。

尊厳死宣言 延命治療の果てに…..

先日TV番組にて日本の高齢化について考える番組がありました。
国民の高齢化によって医療費が今の予算では賄えず、消費税も10年後にはあと5%引き上げないといけないと云う試算でした。
増大する医療費の中でも、延命に対する治療の高度化によって延命期間が延ばされ、長期の入院患者が増加し医療費を圧迫しているとのことです。
脳死判定や呼吸判断等、日本では「安楽死」が認められていないために、自分の死に方に際しての選択肢がありません。
私の周りにも、親御さんが入院し寝たきりになるまで10年間、病院へ通った方がいます。時間的にも金銭的にも計り知れない負担だったと思います。私が同じ立場で入院するのなら延命の治療はやめて貰いたいと思ったのが率直な感想です。

日本全体も高齢化社会ですが、人口の20%を65歳以上が占めると高齢化社会と定義されています。
我が沖縄県でも、人口148万人のうち65歳以上の方が30万人を突破し他府県と同様に高齢化社会となっています。
医療を取り巻く環境は厳しくなり、同様に高齢者の入院で家族の負担は治療の高度化で益々大きくなると思います。
自分自身についてのエンディングも考えていきたいものです。

このTV番組を見られたお客様と安楽死の話をしておりました。一旦は法制化の準備もあったようですが中々に進まないのが現状です。
安楽死のように直接的でないのですが、「尊厳死宣言」という公正証書を作成し延命治療を望まない旨の意思表示が出来る制度があり当事務所でも取り扱いしていることを話したら、聞いたこともないしHPにも載ってないぞとお叱りを受けHPを改訂しました。

公正証書以外では、日本尊厳死協会が行うリビングウィル(治療に対する希望表明)で尊厳死が尊重されます。
こちらはお客様に、ご自分でネットか郵送で申し込み手続きをやってもらうことになりますが、年会費が年間2千円と加入し易くなっています。いずれの場合にせよ、周りのご家族や病院に付き添いされる方々に普段から延命治療を望まない旨伝えることが一番に重要です。沖縄でも高齢化が進んでいきます。まずはご自身でこれからの治療のあり方の希望を表明していきましょう。